Story

王様は毎年盛んな祝宴を催し、王国中の名士を宮殿に招待します。
歓迎の音楽に合わせて華やかに舞うのは、大臣の娘である『蕾の薔薇』。
王様は『蕾の薔薇』をたいへん気に入っており、祝宴の際にはいつも彼女の踊りを披露しました。
たまたまその場に居合わせたとある青年は、一目で彼女に心を奪われたのでした。
これが『蕾の薔薇』と『世の歓び』の出会いでございます。
彼女もまた、『世の歓び』に好意を寄せたのでした。

しかし、運命はそう簡単に二人を結ぶことを許しませんでした。
大臣は王様のお気に入りである『蕾の薔薇』が青年に盗られることを恐れ、遠い遠い砂漠を越えた先にある「子をなくした母の山」に幽閉してしまいます。
彼女は毎晩、悲しみに暮れて『世の歓び』のことを想い、詩を綴るのでした。

ある静かな夜、『蕾の薔薇』は物見台の上に布切れをしっかりと括り付け、それを伝って城壁の上から地面まで滑り落ちました。
無人の野を横切り、しばらく進むと海のほとりに 辿り着きました。
煌びやかな衣装と宝石を身に着けていた彼女を、海のほとりの国の王様は 「これはきっと国王か君主の姫君に違いない」と宮殿へ連れて帰ったのでした。
海のほとりの王様が事情を尋ねると、『蕾の薔薇』はこれまでの経緯を話し、『世の歓び』に再び 会いたいと大粒の涙をこぼしました。
話を聞いた海のほとりの王様は、彼女をとても不憫に思い、 必ず『世の歓び』を探し出す事を約束したのです。

そのころ『世の歓び』は失意のまま、『蕾の薔薇』を追って旅を続けているところでした。
運命の悪戯か、「子をなくした母の山」に着いたときにはすでに彼女はその場を去っていたのです。
身も心も擦り切れて、みすぼらしい姿になり果てた青年を誰も『世の歓び』だとは気が付きませんでした。
王様に命じられ、乙女の想い人を捜しに来た海のほとりの大臣は、召使たちに尋ねました。
「あの男はどこから参ったのか?」
「海で難破をし、財産を全て失いましたが、ただ一人うまく助かった哀れな商人でございます。」
「ああやっていつも、祈祷に耽っている聖人でございます」
海のほとりの大臣はもしやと思い、この聖なる男を連れて帰ることにしました。

青年が宮殿へ着くと、海のほとりの王様は『蕾の薔薇』の物語をお聞かせになりました。
「さて、そなたに尋ねよう。『世の歓び』はいずれにありや?」

「私こそが、『世の歓び』でございます」